安倍晋三首相自身が「政権の最重要課題」と語る拉致問題が、日朝の再調査合意で動き出した。首相にとって目に見える外交成果を得る可能性を秘めるが、北朝鮮が真剣に調査するかは保証の限りではない。国際的に孤立する北朝鮮との交渉は、外交上のリスクも伴う。首相は政権の命運を左右するほどの大きな賭けに出た。▼1面参照  安倍首相は29日夜、首相官邸の玄関口に急きょ記者を集め、力強い口調で再調査の合意を発表した。「全ての拉致被害者のご家族が、ご自身の手でお子さんたちを抱きしめる日がやってくるまで、私たちの使命は終わらない」 今回の再調査合意は、首相が主導したものだ。

 日本の外交当局は26日からの日朝協議に臨むにあたり、制裁解除には慎重だった。「制裁解除の『アメ』だけ食い逃げされてはならない」(政府関係者)との懸念からだ。

 だが安倍首相は外務省の交渉幹部らに対し、制裁の一部解除のカードを切ることを事前に認めていた。

 一方で、コメの支援などの人道支援には直接踏み込まないことも指示していた。交渉が失敗に終わった場合、人道支援にまで踏み込んでいると、日本が国際的に批判を浴びる可能性があるからだ。 さらに首相は、29日に帰国した日本側代表の伊原純一アジア大洋州局長と会い、交渉内容について直接報告を受け、最終的に自ら決断した。再調査の開始と引き換えに、北朝鮮当局者の入国禁止など人的往来の規制といった独自制裁の解除も約束した。

 首相にとって拉致問題の解決は政治家としての「ライフワーク」と言っても過言ではない。2006年に初めて首相になったのも、拉致問題北朝鮮への強硬な態度が評価されたのがきっかけだ。いまの政権では、歴史問題などで、中国・韓国との関係改善の糸口が見えない。首相は最も自信がある拉致問題で外交的な成果を狙ったといえ、日朝首脳会談も視野に入れて交渉に臨む構えだ。

 さらに、拉致被害者家族が高齢化し、「時間との戦い」(古屋圭司拉致問題相)に追い込まれていた面もある。横田めぐみさんの両親を、モンゴルで孫娘と面会させたのも、「もう残された時間は少ない」と考える首相の決断が大きかった。まだ支持率が高く政権に力を残す首相が「賭け」に踏み切ったのは、こうした背景がある。

 しかし、首相は北朝鮮との本格的な交渉に入ったことで、大きなリスクも背負った。日本はこれまで北朝鮮に何度も期待を裏切られてきたからだ。08 年8月の日朝合意では、同年秋までに再調査を終えるとしていたが、北朝鮮が日本の首相交代を理由に見送った。政府関係者は「成果を確認する前に制裁を解除 するのはリスクだ。まただまされる可能性がある」と話す。

 調査の先行きにも不透明さが漂う。今回は3週間前後で調査委員会を立ち上げることで合意したが、委員会に日本政府は入らない。終了期限ははっきり せず、調査内容の検証態勢にもあいまいな部分が残った。首相側は「約束が果たされなければ倍返しだ」(側近)と北朝鮮を牽制(けんせい)する。

 首相は今回の日朝合意を対外的に説明する責任も負う。今回の発表にあたり、日本政府は再調査合意や制裁解除について、北朝鮮の核・ミサイル問題で共同歩調をとる米国や韓国と事前に調整した。しかし、万一北朝鮮核実験などの強硬手段に出れば、首相が国際的にメンツを失い、外交上追い込まれる可能性は否定できない。 (松井望美、山田明宏)

  ■北朝鮮 孤立と食糧難、打開狙う 北朝鮮拉致問題再調査で制裁の一部解除を手にする一方、実際の狙いは孤立した現状を打破することにあるとみられる。

 経済建設と核開発の「並進路線」を続ける北朝鮮だが、経済は決して順調ではない。金正恩(キムジョンウン)第1書記は今年1月の「新年の辞」で、「農業に全ての力を集中すべきだ」と強調していたが、2月中旬からの干ばつで、麦やジャガイモに被害が出ていると伝えられる。4月の最高人民会議では、石炭が不足して電力供給に支障が出たり、病院では医薬品が不足したりといった報告もあった。

 今回の合意には、人的往来や北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を一部解除する内容が盛り込まれた。実現すれば医薬品など必要な物資が一定量、北朝鮮に渡る。さらに、「適切な時期に人道支援の実施を検討」とされており、経済の困窮の裏返しとも言える。 とはいえ、これだけで北朝鮮の経済や暮らしが一気に良くなるわけではない。そもそも北朝鮮経済は中国に深く依存しており、日本から北朝鮮への輸出は、制裁前の2005年でわずか69億円に過ぎなかった。09年の核実験で全面禁止となった北朝鮮への輸出については、今回の制裁解除の対象に入っていない。

 むしろ、北朝鮮には、安倍政権との接近で米韓を揺さぶる狙いがあるとの見方がある。北朝鮮朝鮮中央通信は29日、安倍首相の発表に合わせて合意内容を報道し、「金正恩体制の本気度」(北朝鮮関係者)をアピール。韓国政府関係者は合意について「韓米日の連携を乱し、孤立した局面の打開に成功した」と指摘する。

 ただ、北朝鮮は核とミサイルの挑発をやめる気配はなく、仮に核実験を強行したり、弾道ミサイルを発射したりすれば、安倍政権は米国、韓国とともに非難し、追加制裁を科さざるを得ない。その場合、北朝鮮再調査を打ち切る可能性もある。北朝鮮関係筋は「平壌は安倍首相が米国と韓国にどう向き合うか注目している」と話す。 (ストックホルム東岡徹

  ■北朝鮮、本気の証し/日本、メンツに配慮 関西学院大・平岩俊司教授が分析 今回の合意文書のポイントは、2002年の日朝平壌宣言を前提としていることだ。拉致問題だけに特化するのではなく、終戦直後に北朝鮮に残された日本人の遺骨問題などにも触れ、日朝の懸案にトータルで取り組み、それと引き換えに制裁を解除するという論理構成になっている。

 これで北朝鮮は、日本側に一方的に屈したのではなく、あくまで国益のために合意したという建前をとることができる。金正恩(キムジョンウン)第1書記のメンツを潰さぬよう、日本側がぎりぎりのところで配慮した形跡がうかがえる内容だ。

 北朝鮮は昨年、日本や米国、韓国への挑発行為を繰り返してきた。しかし、成果が乏しく、今年初めごろから対話路線に転じた。2月の米韓軍事演習への「対抗措置」も非常に抑制的だったし、韓国で発見された小型無人機の問題でも、南北の共同調査を求めている。日韓との対話を突破口に、米朝関係の改善を目指す思惑があるのは明白だ。

 日朝平壌宣言にサインしたのは故金正日(キムジョンイル)総書記だ。正恩氏にとっては、宣言を履行して父の遺訓を果たせば、権威の誇示につながるというメリットもある。今回の文書は、北朝鮮拉致問題に本気で取り組もうとしている証しと捉えていいだろう。

 日本政府も本気になる必要がある。北朝鮮が約束を果たした時には、国交回復を含めた良好な関係を構築する「覚悟」を持ち、調査の推移をしっかりと見極めるべきだ。 (聞き手・鬼原民幸)  ■最近の日朝間の出来事

<2002年9月>・小泉純一郎首相が訪朝。金正日総書記が拉致を認め、「8人死亡、5人生存」と伝える

<10月>・蓮池薫さんら拉致被害者5人が帰国

<04年5月>・小泉首相が再訪朝。拉致被害者の子5人が帰国<11月>・平壌での日朝実務者協議で北朝鮮横田めぐみさんのものとする遺骨を提出。日本政府は翌月、遺骨はめぐみさんと別人とする鑑定結果を発表

<08年8月>・中国での外務省実務者協議で、北朝鮮による拉致被害者再調査で合意。翌月、北朝鮮再調査の延期を通告

<11年12月>・金総書記が死去。金正恩体制に<12年8月>・日本人遺骨問題で日朝赤十字協議・北京で外務省課長級による予備協議<11月>・モンゴル外務省局長級協議。2回目の協議は翌月に予定されていたが、北朝鮮ミサイル発射予告後、延期に<14年3月>・中国で日朝赤十字協議と外務省課長級による非公式協議・モンゴル横田めぐみさんの両親とめぐみさんの娘キム・ウンギョンさんらが面会・中国で外務省局長級協議

<5月>・スウェーデン外務省局長級協議

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 以上引用終わり。 「何をあせっているんだろう?」という気は確かにするのだが、それは毎度のことだ。それともやっぱり瀬戸内師が示唆したように服用しているクスリの影響だろうか? 別に安倍の体調を気遣っているわけではないが、やること為すこと全てに亘って、なんか尋常ではない気がする。